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もっと美味しいものをくれ!

「あまりにも落ち着きがないので、もしかしたら病気ではないでしょうか」と、柴犬の『影丸』の飼い主さんから相談を受けました。

愛犬の脳に異常があるんじゃないか?と心配する飼い主さんは意外に多いので驚きますが、実際に病気だった子は、少なくとも私が今までに出会った犬たちのなかにはいませんでした。

奥さんはしつけに熱心でしたが、ご主人はあまり関心がないようでした。ご主人は。影丸の友達でいいそうで、とくにしつけはしたくないとおっしやいます。

私の仕事は「飼い主さんのリクエストに応えること」ですので、飼い主さんがいいとおっしやるのでしたらかまいません。ただ、他人に迷惑をかけることなく、奥さんが困るようなことがなければいいと思います。しかしながらじつは影丸、ご主人の衣類にだけおしっこをかけたりするそうです。

「今あなたが着ているやつにもやったわよ」と奥さん。

ご主人は「マジ?これにも?」と、さすがに少々バツが悪そうでしたが、「友達」なんですから怒ってはダメです。対等ですから、マーキングはアリなんです。きっと影丸から、何かメッセージが送られているのでしょう。

話を聞き終わり、いよいよ影丸をハウスから出したのですが、とにかくうれしそうに部屋の中を走り回って、確かに落ち着きがありません。しかし、異常なほどではありませんでした。おやつで気を引こうと、ご用意いただいた「さつまいもチーズ」を使うと、食べるために一瞬走るのをやめて座りますが、終わると再びエンジン全開モードで走り回ってしまいます。

このさつまいもチーズがいちばん好きだと聞いたのですが、よくよく確認してみると、「フードよりは好き」という程度。

もう少し効き目が欲しいので、何か使えるものがないか探したところ、人間用のチーズがありました。塩分は控えめではありませんが、ごくごく少量なら大丈夫でしょう。犬に塩分がまったく不必要なわけではありません。

チーズを使うと、影丸の動きは一瞬にして止まりました。小さなかけらを口に入れてやると、それからは私のそばに座り込んで動かなくなってしまいました。

「早く、そのおいしいモノをもっとください」という感じで、目をランランと輝かせて座り、チーズと私の顔を交互に見ています。

正直、私自身もおやつの種類による魅力の違いをこれほどまでに見せつけられたのは初めてでした。

ハウスにも入らないということでしたので、チーズで誘導してみたら、迷わずすんなり入りました。ハウスにいたらチーズがもらえる!とわかったら、今度はなかなか出てきません(笑)。脳の異常どころか、理解が早くて賢いようです。

これには奥さんもびっくり。さっそくチーズを使ってハウスにトライしたところ、やはりすんなり入りました。見ていたご主人も感動して、自分もやりたいと言い出しました。

「ハウス!」とご主人。ところが、影丸は入りませんでした。私は入ると思っていたのですが、入りません。犬を指示に従わせるのは、おやつの力だけではないということが検証できて、非常に勉強になりました。しかし、当のご主人はかなりヘコんでいました。その後ご主人は、しつけにとても協力的になったそうです。

影丸の飼い主さんには、この柴犬のしつけについてのサイトでやっているようなベースプログラムを徹底的に実施していただき、トレーニングでは必ずとっておきのおやつを使って、飽きてしまわないようにチーズやささみ、レバーなど使うものを変え、影丸のやる気をキープできるようお願いしました。魅力あるおやつは5種類くらい用意できると理想的です。

その後、奥さんから連絡があり、影丸は相変わらず落ち着きはないものの、指示にはよく従うようになったそうです。不思議なもので、「オスワリ」や「マテ」ができるようになると、走っている姿もかわいく感じられるようになったそうです。

たまに、奥さんをチラチラ見ながら走っているそうで、なんだか影丸と会話をしているように感じるときがあるそうです。

影丸が「イェーイ! 早くオスワリって言ってね!と言ってるように聞こえるともおっしゃっていました。心を入れ替えたご主人、衣類へのおしっこもされなくなったそうですよ。

食べもので動物をコントロールすることを嫌がる飼い主さんもいます。でもあの畑正憲さんは、おやつで誘導するトレーングを敬遠する人に向けて、著書『ムツゴロウの動物交際術』の中で、「おいしいものは、心の平和をつくり出す」と言っています。

一緒に楽しくおいしい思いをすると、人はもつと仲良くなれると思うのです。人と動物とのあいだに、それが起きてもおかしくないですよね。